HUGっとプリキュア感想文

まえがき

 

プリキュア10周年の際、オープニング開始前に歴代のプリキュアが週替わりで挨拶をするという演出があった。しかし、それがどのプリキュアだったのかを頭に思い浮かばせることはなかなかすぐには出来なかった。

 

そして今回は15周年ということでその演出が良くも悪くもこの年のプリキュアシリーズの根幹となった。今回はそんなHUGっとプリキュアを少しではあるが振り返りたい。

 

1.15周年という記念性

 

前段でも述べたが、このシリーズは15周年ということで記念性を帯びていた。10周年の時とは違い、過去シリーズのプリキュアを本編に直接登場させるという演出方法をとった。

この方法の優れた点はとにかくインパクトがあったこと。過去のプリキュアが声付きで画面上に出るという映画館でしか見られなかった演出が本編で見られたことは、この先のシリーズが続いていく中でも特別な意味を持っていくことだろう。えみるとルールーがプリキュアになった直後と物語後半でドクタートラウムを浄化する回のシナリオの重要な場面に歴代のプリキュアや過去のシリーズに登場したプリキュアを応援する者たちが全て揃った姿は神々の一言に尽きる。

 

しかしながら、このプリキュアオールスターズ関連の話に結果的に計4話を使ってしまったことを考えると、はぐっとプリキュア本編の掘り下げをそれだけできたのではないかと思うだけに難しい舵取りを強いられたことが浮かんでくる。

 

2.育児や社会問題をテーマにした先進性

 

このシリーズは現代社会が抱えている様々な問題を否応なしに考えさせるシリーズだったように思う。敵組織であるクライアス社は現代の会社の闇をモチーフにしたキャラクターが多かったし、主人公やその周囲の人々もまだ中学二年生という年齢で、かなり困難な状況で悩む姿も多々見受けられた。

 

言うまでもないが若宮アンリの存在、プリキュアの貴重な出産シーンと見ていてここまでやるのかというある種引いてしまう気持ちが心に芽生えたこともあった。「登場人物敵味方全てが困難を乗り越えていって未来をつかむ」という筋書きは前作でも見られたが、本作ではより現代社会における私たちにも共感できる形を見せていたと思う。

 

3.結果という名の考察


先進的だったことについては多くのシーンで賛否両論があったことは否めない。
前述の若宮アンリの処遇や主人公の出産シーン等は、プリキュアファンのみならず多くの人間の間で議論を呼んだ。ここではそんな沢山ある考えたいシーンの中でも一番思ったことを一つ語っていきたいと思う。

「未来」とは何だったのか?

そもそもこのシリーズはクライアス社によって時間を停止(破壊)された未来からやってきた、ハリーとはぐたんが野乃はなと出会うところから始まる。

未来から過去に助けを求めにやってくる作品ですぐ思い浮かぶのはドラゴンボールZの「トランクス」だ。彼が住む未来では主人公である孫悟空が病死し、その息子の孫悟飯も人造人間により倒され後がない状況の中、トランクスがタイムマシンで過去に行き孫悟空達に事前に歴史を説明して、人造人間に対する対策を前もって練ってほしいと言って去っていく。その後トランクスは何回か過去と未来を行き来して、最終的に過去と未来で人造人間と戦い勝利をつかむことになる。しかし、未来の世界では孫悟空孫悟飯もトランクスの父親であるベジータも結局生き返らず、トランクスは未来で母や残り少ない人類と生きていくことになる。(超のマイの存在はここでは置いておく)
つまり、未来と過去が「平行世界」として描かれている。

 

話をプリキュアに戻そう。ハリー達は未来からやってきた。しかし、未来を絶望の世界にした本人であり敵対するクライアス社も同時に未来からやってきているのである。クライアス社は戦いの中で次々と戦力を失い、ついに社長であるプレジデントクライ(ジョージ)の敗北をもって倒産となる。


問題はここからだ。結果的にクライアス社の連中は全員生き残り(社長以外)、ハリーとはぐたんと一緒に「未来にカエル君」という発明でみんなで未来へ帰ってしまうのである。

そして、視聴者には十数年後の野乃はな達の姿が映し出される。クライアス社の代わりに野乃はなが社長の、アカルイアス社が世の中を席巻しに、他のメンバー達も本編で描かれた自分の選んだ道を歩んでいる。

未来に帰ったクライアス社の人々はクライアス社には就職しなかった扱いになっている(ハリー含め)。簡単に言ってしまえば彼らも道を誤らずに未来へと辿り着くことができた。ストーリーとしてはルールーは育成型アンドロイドとしてえみるがドクタートラウムに資金援助を出し作り上げ再会、はぐたんは野乃はなの子供として再び巡り合う(医師:さあや、立会人:ほまれ、助産師:ダイガン)……というストーリーで大団円……なのだが。
これだけ見ると未来と過去が「直線的世界」で描かれていることになる。

 

しかし、この直線的世界の場合はハリーとはぐたんが過去にやってきて、野乃はながプリキュアになった瞬間に未来は変わることになるからそこでこの話は終わってしまう。
そうなるとこの話は平行世界で語られる事になる為、前述のトランクスの例のようにハリーは過去と未来を、自分たちの力で変えていかなければならない。

そこが完全に抜け落ちてしまっているので、ハリー達が未来に戻ってその時間を平和にするというアナザーストーリーが、他の媒体で求められるこのシリーズの盲点だと感じる。(野乃はなの夫、ちびルールー、ほまれ家に居着くハリハリ族等、突っ込見どころはほかにもたくさんあるのだけど……)